考察・解説

「梨泰院クラス」パク・セロイの怒りはなぜ共感される——「正当な復讐」のフォーミュラ

韓国ドラマの復讐劇に新基準を作った男

「梨泰院クラス」(이태원클라쓰)の主人公パク・セロイは、韓国ドラマ史上で最も「正しく怒った」男かもしれない。父を轢き殺した財閥の息子は刑事罰を免れ、セロイは正義を訴えたことで逆に少年院に入れられる。普通の人間なら絶望するか、諦めるか、復讐の過程で己を失うか——そのどれでもなく、セロイは15年の歳月をかけて「合法的かつ誇り高く」仇を討つ。

この「正当な復讐」という設定が、梨泰院クラス考察のキーワードになる。なぜ視聴者はセロイの復讐を「正当だ」と感じるのか。そしてなぜその怒りにこれほど共感するのか。

「理不尽さ」の積み上げが共感を生む

物語序盤で描かれるセロイへの「理不尽な仕打ち」は、視聴者の怒りを代理体験させるための精緻な設計だ。父の死、少年院、釈放後も続く財閥チャンガの嫌がらせ、愛する人の喪失——これだけの理不尽が重なれば、「怒って当然だ」という視聴者の感情が自然に喚起される。

重要なのは、セロイが怒りを爆発させないことだ。彼は激昂しない。感情を制御し、目標を明確に持ち、着実に歩み続ける。この「静かな怒り」こそが視聴者に「この人を応援したい」という気持ちを起こさせる。感情的な復讐者ではなく、原則を持った戦士——パク・セロイはそういう存在として描かれている。

「信念を曲げない」キャラクターが刺さる時代背景

「梨泰院クラス」が放送された2020年は、コロナ禍が始まった年でもある。多くの人が「理不尽に不自由を強いられ」「努力が報われない」感覚を持っていた時代だ。そこに「理不尽に負けず、信念を曲げず、勝利する」セロイが現れた意味は大きい。

また現代の韓国社会では、財閥と一般市民の格差、権力者による不正の横行、就職難といった問題が深刻だ。チャンガ財閥に象徴される「権力の暴力」に対して、スモールビジネスで立ち向かうセロイの姿は、若い世代の「こういう戦い方がしたい」という理想を体現していた。

オ・スアとチョ・イソ——二人のヒロインが映すセロイの「人間性」

パク・セロイの人間性を際立たせるのは、二人のヒロインとの関係だ。オ・スア(クォン・ナラ)はチャンガ家の人間でありながらセロイを慕い続ける。チョ・イソ(キム・ダミ)は天才的な頭脳でセロイを支え、彼の「変えられない部分」を愛する。

セロイがオ・スアを選ばずイソを選ぶラストは、単なる恋愛の結末ではない。「過去の感情」ではなく「今ともに戦った仲間」を選ぶセロイの判断は、彼が復讐に囚われた男ではなく、前に進む人間であることを示している。これが「梨泰院クラス」をただの復讐劇以上のドラマにしている理由だ。

「正当な復讐」のフォーミュラ——梨泰院クラスが確立したもの

梨泰院クラスが確立した「正当な復讐」のフォーミュラを整理すると、次のようになる。

  • 理不尽な被害を積み重ねて「怒って当然」の文脈を作る
  • 主人公は感情的にではなく原則的に行動する
  • 復讐の手段は「合法」かつ「正攻法」である
  • 復讐を達成しても、主人公は人間性を失わない
  • 愛と仲間の支えが復讐の「正当性」を補強する

このフォーミュラは、その後の韓国ドラマにも大きな影響を与えた。「財閥家の末息子」「ヴィンチェンツォ」など、視聴者が悪に勝つ主人公を応援するドラマは後を絶たない。

パク・セロイという人物が残したもの

パク・セロイの怒りが共感される理由は、それが「個人の恨み」ではなく「社会の不正への抗議」に昇華されているからだ。彼の戦いを見ながら視聴者は「自分もそう生きたい」「理不尽に負けたくない」と感じる。それは現実世界では難しい理想だからこそ、ドラマの中でそれを実現するセロイに熱狂するのだ。

パク・ソジュンが演じたパク・セロイは、韓国ドラマの「正義のヒーロー」像に新たなスタンダードを打ち立てた。だってばよ!この男の生き様は、一度見たら絶対に忘れられない。

📺 ABEMAプレミアムで韓国ドラマを見る(2週間無料)

-考察・解説